2016年より始まった「働き方改革」の中で、経済産業省や中小企業庁を中心に「副(複)業解禁」が叫ばれ始めました。本年2017年には、サラリーマンの所得税を実質増税する反面、フリーランスは減税するという政策を財務省が発表したり、厚労省も現在の「モデル就業規則」の副業禁止を本年度中に見直す動きが発表されました。
今なぜ、副(複)業解禁が求められているのでしょうか?
政府や社会、企業、個人などの事情やメリットなども踏まえまして、ご紹介していきたいと思います。
1:国としての理由
まず政府がなぜ働き方改革の中に副業兼業を含めているのでしょうか?これには次の理由があります。
①人口減少
②GDP600兆円を目指す政府目標
③事業承継が進まないことによる中小企業数の減少(GDP22兆円減少、雇用650万人減)
④先進国の中でも低い開業率を是正したい(日本:3%台、欧米6~10%台)
⑤成長産業や必要産業に対して労働移動が起こりにくい(硬直的な労働環境)
⑥AIによる雇用減(2030年に最悪約735万人が失業する)を防ぐ
端的に言えば、日本は人口減少と高齢化による経済インパクトを回避するのには、今のような労働経済環境では立ちいかないと考えており、そのためには個人が生産性を上げて複数のビジネスユニットで成果を挙げてほしい、そうした枠組みを作りたい、と考えているとみると分かり易いと思います。
2:社会として
社会的にも副業の解禁には多くのメリットが見込まれます。
①働き方のモデルを、一社に就社→65歳引退、年金生活者 から、複数社に就社→引退の概念をなくして働けるまで自分なりに働く へのシフト
②地域や非営利セクターへの人材流入への期待
高齢化社会に適応するためには、今までの専業サラリーマン+専業主婦というスタイルから、多様性のある働き方が求められます。高齢化に伴い高齢者を一律に年金受給者としないようにしたり、主婦でも細切れ時間を活用してそのスキルや経験を活かすといった働き方が求められてきます。
また何より、細切れでも働く場所や機会に恵まれることは、やりがいの創出や犯罪の抑止、地域の活性化等、社会的にはプラスの効果が費用に高いです。
3:個人として
個人が一つの職場のみで、何十年もそのキャリアを実現するには、仕事を取り巻く環境の変化は早く、自分自身のキャリアを見つめて変化する次代になりました。
①ミドル・シニア世代、特にポストオフされたケースなどでは、社内のみでは自身の経験やスキルを十分発揮できない。多様な経験は社外のセクターにも生かす機会がたくさんある
②在宅勤務やテレワークなどができない職種では、育休中などに別の簡易な仕事に就くことでビジネス感覚を鈍らせないばかりか外の世界もわかる機会になる
③20代後半~40代前半の中堅層は、自身の学習を活かす機会のみならず、新しい学習の機会としても複業は有効である
④事業開発やマーケティングなどの部門は、社外との協働で価値創造をするケースも増える。
⑤主に若手社員には、人手が足りない部門での人材育成にもつながる
⑥企業などを退職したフリーランスなどは、複数の職場や仕事を持つことが経済的・社会的なポートフォリオになる
⑦企業に勤務するイノベーターは、上司の許可を得たり自ら退職せずとも、スタートアップが可能になる
➇企業に務めながら資格や学位などを保有する人材にはそれらを活用する機会になる。
⑨将来、独立や転職などのキャリアアップの準備になる
もし、自分が複数の文脈で働き、成果を挙げることができると思えば、そうしたくないと思う人はほぼいないのではないでしょうか。
4:企業として
2017年の経団連の見解も含め、企業側は副業解禁にいまだ及び腰になっています。しかし、副業解禁には以下のような企業の成長機会も生まれます。
①他社文脈で働く経験は、イノベーション人材のOJTとして絶好の機会となり、しかも育成コストも少なくて済む
②中小企業にとっては、高度な人材をコマ切れで低コストで活用できる機会に繋がる(「複業採用」等)
③事業承継を考える企業にとって、副業で来てくれる人材は、低コストで自社の仕事をしてもらいながら、自社を見てもらう機会になる
④自社の事を分かる人材が、社内に新しい風・視点を注ぎ込み、市場や顧客のニーズの探索に役に立つ
⑤副業先をベンチャービジネスなど企業が新たに進みたい領域にすることで、成長の機会を得る
⑥自社の社員を起業させることで、社員の学習と新規事業の機会をうかがう
⑦副業許可により、人件費を抑制する
このようなチャレンジを、なぜ個人や企業が挑戦する必要があるのでしょうか?なぜ政府がそれを後押しする必要があるのでしょうか?
日本は今、大きな岐路に立たされています。高齢化や人口減少だけでなく、イノベーションが生み出せず、社会保障費の増大に伴い国の借金は増えるばかりです。他方国際競争力は下がる一方であり、女性の活躍なども進んでいません。
副業解禁は、日本人のこれまでの考え方や思考モデルを変える一つのきっかけにすぎません。しかし上記に見るように大きな変革のきっかけになる可能性も秘めていると思います。
来年は、いよいよ実際に副業解禁が本格化し、変革のスタートする年になると思います。
その時をポジティブにとらえ、私たち自身の問題解決と成長につなげていきたいと考えています。
来年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。