第一回:複業時代に働く個人はどう変わるのか?前編
初回は、働く「個人」に焦点を当ててみたいと思います。
最初に、私は「すべての人が今現在において副業・兼業(以下、複業とする)すべきである。」というつもりはありません。人にはそれぞれの仕事を通じた貢献やキャリアがあります。年齢も違えば職種や役割も様々です。
しかし、全ての人々が長い職業人としてのキャリアの中で、少なくとも一度は複業を考える必要がでてくる、と強く思っています。
いまどき、「大学や大学院を卒業して、一つの組織に定年まで勤めあげて、職業人生を終え、余生を生きる」などという人生プランの時代ではないことは誰しもが気づいています。
2016年にはそのことを決定づける「ライフシフト」(リンダ・グラットン、アンドリュースコット著)という書籍が発売され多くの方に読まれました。多くの人に読まれた理由は「人生100年時代」というキーワードかもしれません。60歳や65歳で定年しても、まだ3、4割も人生は残っており、どう生きるのか、どう働くのか、を問われます。著書では、ポートフォリオワーカー(複業)、エクスプローラー(探究)、インディペンデントプロデューサー(独立事業家)という三つの視点を紹介して、複数のキャリアを紹介しています。
さらに遡れば、経営学の父とも言われる、P.F.ドラッカーは、いまから20年も前の著書「明日を支配するもの」で、既に人が働く時間は企業の平均寿命より長い事を例に、第二の人生について触れその中でパラレルキャリアについて述べています。
こうしたことから分かることは、複業は単にお金を稼ぐことや地位を確立する意味だけでなく、キャリアや人生と深く結びついたものであることが分かります。
近年「3年で辞める若手が3割」、と言われますが、これには様々な理由があると思いますが、大別すると三つに分かれると思います。一つ目は、「自分の未来が描けない」、二つ目は「処遇(給与)の不満」、三つ目は「ストレスの大きい職場環境」です。すべてが当てはまる人もいれば、一つの理由が大きいため離職に至るケースもあるでしょう。
最近、就職の面接などにおいて「御社では副業が許可されていますか?」といった質問が増えたという人事担当者の声を耳にします。これも実は上記の理由が発生した際に「副(複)業」によって緩和されるのか?を確認しているということも出来るでしょう。追い込まれたときにうまい“逃げ場”のない組織で働くのは困難であり、選ばれない又は選ばれても離職につながりやすい、となってもやむを得ないかも知れません。
「2020年問題」という言葉はご存知でしょうか?これは“2020年にバブル期に採用した人材が全員50歳を超える”、つまりボリュームゾーンの世代が年功制の下で高い賃金を得ることで企業の人件費を圧迫する、という問題意識です。最近のミドルシニア世代を中心とした早期退職制度の進展は、こうしたことが背景にあります。そして、副業解禁する企業の多くは、こうした世代の方に対し積極的に外に目を向けて自らの働き方を“見直して”ほしいと考えています。もちろん“見直す”の具体的な部分は企業によっても様々ですが、成果を上げるか又は退くか、という厳しさを持ってほしいという部分では各社の人事担当者も意見が一致しているようです。
一方、当の50代以上の社員も「自分はこの企業を離れて何ができるのか?」を考え始める方がたくさんいます。健康寿命が70歳を超える現在、会社を辞めてからもいきいきと働くことを考え始める方もたくさんいます。
複業というのは、「本業とは別にお金を得る手段」という見方もできますが、もう一つ重要なのは、「仕事をしながら次の(キャリア)ステージを準備する手段」という考え方です。これはミドルシニア世代の方はもちろんですが、若い方でも、中堅でも、又は転職や起業を考えている人などの準備として考えているということです。
そして、特に“複業で起業する”ことは米国でも「Side Hustle」と呼ばれており、欧米においては起業する人の半分以上が最初は複業で起業しているというデータもあります。
こうしてみると、働く個人が「複業」を考え始める理由は、変化が速く不安定な経済環境の中で、自分自身がどのようにキャリアを築くかという長期的かつ理想的な視点と、小さくても収入を増やす活動を始めてみるという短期的かつ現実的な視点を併せ持つ活動ということができそうです。
後編につづく