第五回:複業時代に企業はどう変わるのか?中小企業前編
複業が当たり前になる「複役社会」に、日本の企業の99.7%を占める中小企業はどのように向き合うべきなのでしょうか?
仕事柄、中小企業の経営者の方や勉強会などでお話しさせていただく機会も多いのですが、多くの中小企業の経営者からは「ただでさえ人手が足りないのに副業されては困る」「副業解禁の理由が分からないし、大手企業の話では?」という声がほとんどです。
実際、日本商工会議所が「商工会議所LOBO(早期景気観測)調査(7月分)」に付帯して「正社員の副業・兼業に関する状況について」を会員中小企業に聞いたところ、現在認めていない企業が73%。その中で今後も認めない41・4%の企業の理由は「長時間労働・過重労働につながりかねない」が大半でした。
しかし、ブログの初回でも少しお話ししました通り、政府が副業解禁を唱え整備しているのは何も大企業のためではなく、むしろ中小企業や日本経済のためなのです。
●副業解禁の中小企業にとっての意義
まず、中小企業から見た日本社会や経済の大きなトレンドは、やはり人口減少及びそれが引き起こす様々な問題でしょう。
中小企業の永遠の課題ともいうべきなのが、売り上げの課題です。B to Cの会社はもちろん、B to Bにおいても、人口や企業数が減っていくため、現状のままのビジネスで国内での売上の増加は見込めません。
そして、その次の課題が“人”の問題です。一つは初回にお話ししました事業承継の問題です。
事業承継の問題は、経営者がいなくて承継できないという内容ですが、実態を詳しく調べたり、インタビューさせていただくと、経営者の方の様々なご事情があります。ご子息などには苦労させたくない、自分の道を歩ませたい、等の理由で最初から承継を考えていない企業もあります。また、時代の変化が速いため、承継しても事業内容を変えざるを得ない、それならいっそ起業した(させた)ほうが良い、というケースもあります。相続税や株など、金銭に絡む問題も避けては通れません。こうしてみると事業承継の問題は継ぐ/継がないだけの問題とは言えないのが実情です。
もう一つは採用の問題です。中小企業の経営者と話していると、「ウチは大手並みの給与を払っている」という会社や、中には経営者の給与を抑えてでも社員に回している会社もあります。私はこういう経営者には敬意を表します。しかし、人材が減るというトレンドの中では優秀で若い人材の獲得競争は激化しています。意欲ある人材は大企業やベンチャーなどに流れる傾向が進んでいます。新卒や若手の採用という場面においては、中小・中堅の人材難はこれからも進んでいくでしょう。
そんな中で、副業が当たり前になる「複役社会」では、中小企業にとっては“副業人材の獲得”、つまり大手企業や他社の会社からの副業する人材を受け入れる、「副業採用」を行うという選択肢を検討すべきと思います。「副業採用」とは、文字通り、副業する人を採用することです。週1,2又はテレワークなど出勤ではなくても仕事をしてもらう形です。
【副業採用のメリット・デメリット】
〇メリット:
・すでに現役で働いている人材のスキルや知識が活用できる
・正式に採用する前の“おためし”的な形がとり易い
・短時間勤務でコストパフォーマンスが良い
×デメリット:
・勤務時間に制限があり、融通が利きにくい
・仕事を切り出す必要がある
・時間単価は(新卒、若手より)高い
こういうお話をすると、中小企業の経営者の方は「そういう副業なら歓迎する」とおっしゃいますが、事はそう簡単ではありません。
副業する側から見れば副業先の選択肢は多数あります。既存の中小企業以外にも、(若い)スタートアップに参画する、非営利活動に参加する、自分で起業する、などがあるからです。企業に勤務している人が忙しい中で行う副業ですから、その人にとって魅力のある事をしようと思うのは当然です。ですから、「副業で当社を選んでもらいたい」と思うなら、“選ばれる理由”を用意する必要があります。
次回は、中小企業が「副業採用」を行うにあたり、どのような点に注意すべきなのか、企業の経営という視点で見ていきたいと思います。