第七回:複業時代に企業はどう変わるのか?ベンチャー企業編
今回は複業が当たり前になる「複役社会」において、ベンチャー企業について考えてみたいと思います。
私は基本的には「複役社会」はベンチャーにとっては“朗報”だと思っています。もちろん課題はいくつかありますが…
●そもそもベンチャー企業って何?
ご存知の通り、「ベンチャー」は和製英語です。英語ではSTART UP(スタートアップ)というのが正式とされています。ですが最近はベンチャーとスタートアップを分けている意見もあります。
一般的な見解として、中小企業、ベンチャー企業、スタートアップ企業の違いを纏めたのがこちらです。(実際にはこのとおりきちっと分けられないケースの方が多いです)
また、企業の成長カーブに分けて分類する形もあります。
すごくシンプルに言えば、中小企業は企業の存続を第一に考えており、ベンチャーはその事業の成長を意識している、スタートアップはその事業のスケーリング(一気に広めていくこと)にと、それぞれ主眼が置かれています。
以降では、上記の「ベンチャー」「スタートアップ」を総括して“ベンチャー企業”と呼ぶようにします。
●ベンチャー企業の課題
スタートしたばかりの会社もあれば、10年以上たつ「老舗的な」ベンチャーもありますが、共通しているのは、「課題のデパート」と言えるくらい課題を抱えていることではないでしょうか?なぜならベンチャー企業は「成長を志向しているから」です。
「成長」を意識すれば、様々な人達(顧客、VC、銀行、競合、協力先、士業や専門家、等)との交渉や協働が同時多発的に必要になります。仕事をすればするほど忙しくなるし、課題のクリアが新しいタスクを生む、という具合になっていきます。そして、それでもできないことや、やらなければならないことがたくさんある、それがベンチャー企業です。
そんな中で、ベンチャー企業の抱える大きな課題の一つが、「人の問題」ではないかと思います。会社を一緒に成長させてくれる人材です。一般的にベンチャーやスタートアップ企業というと、どこかキラキラしたイメージや能力も意識も高い集団というイメージがありますが、実際どこも人不足になりがちです。
読者の方はベンチャーと聞いて、ぱっと思いつく企業がどのくらいあるでしょうか? “ベンチャー企業”のイメージとは裏腹に、ほとんどは知名度がない会社が多いです。ですから大半のベンチャーは人員の獲得に苦労しているのが実状なのです。
●複業人材が活躍する場所
私は、複業が当たり前になった「複役社会」では、大手企業からの副業者がベンチャー企業に行くことはとても望ましいと思っています。なぜなら副業したい人と受け入れる側が“相思相愛”になる確率が高いからです。
ベンチャーは上記の通り慢性的な人不足ですが、成長を志向する以上、大手企業も含めた多様なステークホルダーを相手にします。これには、エネルギッシュな若者に加え、知見のあるベテランの知識や経験が必要になります。ですが、知識や経験のある専門人材をフルコミットで雇うのは資金的にまだ難しい。そこで、そうした方に副業できてもらうのは大変メリットがあるのです。
一方、したい個人も、企業や組織の“駒”として部分的な仕事ではなく、ベンチャーのダイナミックなビジネスは自身のビジネス感覚を磨き直すきっかけになります。もちろん、副業先のベンチャー企業から教えてもらうのではなく、自身のスキルを使って具体的な貢献をしながら自身も学ぶというGIVE & TAKEの関係です。まさに生きたビジネススクールといえます。
●「複役社会」でのベンチャー
相思相愛に見える、大手企業からの副業でのベンチャー参画ですが、障害となる課題もまだまだあります。相思相愛と言いましたが、個別に相思相愛になるには、お互いをよく知る必要があります。スキルが見合うかどうか、貢献できるかどうか、はもちろんですが、年齢や性格、仕事や事業に対する考え方などにも影響してきます。もともと大企業に勤務することとベンチャー企業ではリスクや成長志向がまったく異なります。双方への誤解もあるでしょうし、年齢的な価値観の違いもあるかもしれません。
いずれにせよ、良いマッチングをしていくには、互いを知る時間や対話が必要でしょう。
ベンチャー企業は、“イノベーションの担い手”という側面もあります。元来、イノベーションには、「(古い常識を捨て)新しい常識を創る」という意味があります。
所属や年齢などのステレオタイプな常識を捨て、副業者とベンチャー企業が新しい関係性を作りビジネスを拡大していくこともまた“イノベーション”ではないでしょうか?
次回は、非営利組織と複業について考えてみたいと思います。