第八回:複業時代に企業はどう変わるのか? 非営利組織編
今回は複業が当たり前になる「複役社会」において、非営利組織について考えてみたいと思います。
前回、副業解禁はベンチャー企業にとってチャンスだ!みたいな話をしたのですが、NPOなどの非営利組織にとっても同じようなことが言えると思います。また、非営利組織を副業で作るということも増えていくのではと思います。
●非営利組織の実態
まず、非営利組織ってどういうものでしょうか?いろいろと大きな誤解がありますが、実は営利組織と比較して、(基本的には)たった一つしか違いがありません。
それは、原価や従業員の給与、税金などを払った後に残った利益を、分配するか否か、のみの規定です。非営利に関する誤解の多くは、「利益を得てはいけない団体」「原価レベルの低価格でしか料金を請求できない」(中には無償でしか請求できない)など、の誤解が根強くあります。“非営利”という名称もいけないのでしょう。非営利組織が営利的な事業を行うのは全く問題がないのです。
また、非営利法人で働く人の平均年収は260~300万円くらいと言われています。会社で働く人は440万円、公務員は680万円くらいと言われていますので、かなり低いのも実は上記のような誤解が少なからず影響しています。
複業の話の際によく一緒に出るキーワードとして、「プロボノ」があります。プロボノとは、米国などにおいて(事業収入)が少ないNPO等非営利団体に対し、弁護士が法律相談などを無償(又は安価)で行ったのが起源とされています。そこから徐々に他の専門家も、資金が不十分な非営利団体に対して行うボランタリーな活動でした。今でも基本的には支援対象として非営利組織を専門としている団体がほとんどです。
次に、代表的な非営利法人である、NPOと一般社団法人の設立数についてです。
① NPOの設立数推移
NPO法人の設立数については、2013年度あたりからその設立が鈍化しています。2018年度からはわずかながらですが減少しています。
②社団法人の設立の増加
一方で社団法人法が改正され、登記のみの設立や事業のやり易さなどから、その数が年々増えてきています。現在はNPOを超える、59.955団体あるとされています。
●非営利組織の課題
非営利組織の課題は、活動の継続性やファンドレイジング(資金調達)にあるとよく言われています。実際上記のような理由で収益事業がなかなかやりにくい事や、NPO等は決算の公開性などで運営が難しい部分もあります。
ただ、一番は、組織のブランディングとそのアピールが課題です。
非営利組織の資金調達は、事業収入だけでなく、会費や寄付、あるいは助成金事業などで
採択されることなどがあります。事業も企業や他団体とのコラボレーションなどもあります。こうした活動に一番重要なことは、自社が何を大切にし、なぜのその事業をやるのか?をきちんと伝えられるか?が課題です。自組織の理念や取り組みを発信することで、組織のブランドを確立していくことになります。社会的に『大切な』団体だからこそ、お金や人が集まり、そこから事業採択や独自の事業も展開できるというわけです。これは大よそすべての非営利組織もしくはスモールビジネス全体にも言えることかもしれません。
●「複役社会」での非営利組織
「複役社会」における非営利組織、とりわけ人口減少や格差が原因で引き起こされる社会課題に直接向き合う可能性がある非営利組織こそ、こうした自社の理念や取り組み内容を上手く説明し、協力者を集めていく必要があります。そのためにも「プロボノ」、「複業人材」を受け入れていくことが大切に思います。非営利組織の実態も正しく伝えて、金銭による報酬以外にもやりがいや正義感など社会的活動に関わることへの意義を上手く伝えられるようにすることは大切だと思います。
非営利組織は決算も公開するなど公益性が強くあります。だからこそ副業人材の人件費も通常の企業の相場観ではない価格でお手伝いしていただける可能性もあります。非営利組織だからと言ってボランティアに頼るだけではなく、少しでも支払う気持ちを持つことで、非営利組織自体の収益性や事業性を真剣に考えることも大切だと思います。収益がなければどんなに良いことも継続が難しくなるからです。
もう一つの流れとしては、会社に勤務する人などが複業として非営利組織を創業するということも増えていくでしょう。以前に副業で起業することが増えていくと書きましたが、会社に行きながら株式会社を創るよりも非営利組織を立ち上げると言った方が好まれるケースがあります。情報漏えいの点や退社されるリスク、或いはビジネスの力の入れ具合などを見た時に、所属する企業にとっては安心するからかもしれません。
多様な経験や興味が人生を豊かにします。営利活動とは別に、複業として非営利組織を立ち上げることも、意義があるように思います。
次回は、フリーランスと複業について考えてみたいと思います。