上杉鷹山に見る「人的資本経営」

上杉鷹山(1751~1822)は、後の1894年に内村鑑三が「代表的日本人」の中で紹介されて欧米にも知られる日本のリーダーです。彼は17歳の時に困窮する米沢藩の家督を継ぐこととなり、様々な改革を実行した人物として知られています。
その中で、彼が取り組んだ産業政策の方針が、次の二つと紹介されています。
①:領内から不毛な土地をなくすこと
②:領民の間に怠け者を許さないこと
この二つは、今話題となっている人的資本経営(主に戦略人事)においても重要な示唆を与えていると思います。
①について、当時代の富は米や農作物でありますが、現代においては企業における付加価値と言い換えられるとした場合、ここでいう”不毛な土地”は、組織に貢献しない人やナレッジを指すのかもしれません。つまり、人的資源を価値のあるものに変えるような施策、平たく言えば、社員のだれもが会社に貢献できる仕組みを”会社側”が整える必要がある、と読むことができると思います。
土地は、仮に不毛だからといって領地から外す、ということはできません。企業における人も、「取り換え可能な部品」ではなく、外すことができない、耕す(育成)べき資源とみなして経営にあたることが大事という示唆に思えます。
②について、これは言葉通りですが、領民を企業における社員と捉えた場合、団結して働き価値創出にあたるということです。鷹山は戦のない時には武士の階級にあるものにも農作業をさせたり、自らの財産を新規事業(絹の産業)に投資するなど、階級の差なく富の創出に全精力を傾けました。
(当時の米沢藩は、そのくらい藩の財政が苦しかった)
今日の企業においては、やれ上層部が頭が固くて何もしない、おじさんが働かない、などと言われますが、リーダー自らが姿勢を示し目標を設定して、最初に率先して取り組むことで、全社の取組みを明確にするということが真のリーダーシップであろうと思います。いつの時代のどのようなリーダーシップ論であれ、一番働くのがリーダーであることに異論はないと思います。
------------------
人的資本経営(戦略人事)が新しいキーワードとして言われるようになりましたが、人やそのナレッジことが貴重な資源であり決して腐らせず尊重し有効化することが重要であります。タレントマネジメントで人やそのスキルなどを”可視化”できても、ただ単に「見ている」だけではダメで、実際に活用・活躍してもらうための仕掛けを作ることが求められています。
また、そうした環境を整えることで、”働かないおじさん””社内失業”というような”状況そのもの”(個人ではなく)を憎み、そんなことが起こらないように仕向けていくことが、人的資本経営のまず最初の本質ではないかと思います。
経営学はそのほとんどがなぜか米国から流入した小難しいカタカナ用語のキーワードが並ぶことが多いですが、まずは温故知新、日本の先人から学ぶことも大切ではないかと思う今日この頃です。

①と②の関係が、双方向(経営と人材)の”忠誠心”ということが言えるのでしょう。今風に言うと「エンゲージメント」でしょうか。 内村鑑三は、この「代表的日本人」の中で、「東洋の思想家にとって、富は常に徳の結果であり、富と徳の関係は果実と木の関係と同じである」と説いています。

経営と人材の”忠誠心”こそが、人的資本経営の中心概念であるということかもしれません。