分数経営においてのここ数年のトレンドは「生産性」である。
「生産性」は経営の資源の投入により、付加価値がどのくらい上がったかを見る。計算式は、付加価値 / 資源投入量で示す。
付加価値は、実は様々な計算方法があるが、一番わかりやすいのは売上から売上原価を引いた粗利益(売上総利益)である。
(中小企業庁の方式では、人件費+減価償却費+営業利益とされている)
昨今の”生産性”はほとんど労働生産性で語られることが多い。その公式は、付加価値額 / 労働投入量であり、労働投入量は、労働者数×労働時間の 労働総時間 で表す。
(これに時間当たりの平均人件費単価をかけると人件費総額となる)
本来の生産性は、前回のROEの時と同様、分母が固定的な状況で分子をどう上げるか?であり、分子(付加価値額)の増大こそが大事である。最近は労働者の給与や最低賃金の上昇などにより、分母が大きくなるため、さらに分子をどう大きくするかが課題になってくる。
しかしこれもROEと同様、分数での評価になっているため、分子を増大させるのではなく、分母を減らそう、つまり労働投入量を減らそうという発想につながりやすい。事実、働き方改革の最初のテーマは、副業でも同一労働同一賃金でもなく、「残業削減」「労働時間削減」であった。
基本的には従業員は無償では働かないので、労働時間の減少は人件費の削減に働く。付加価値額が伸びない状況であれば、労働時間を削減、つまり人件費の抑制が生産性向上に寄与してしまうことになる。
経済評論家のデービッドアトキンソン氏は、生産性の向上こそが賃金上昇のキーになると言っているが、これは生産性向上ではなく、付加価値額の増加と言った方が分かりやすいし事実にあっている。
氏は特に、中小企業の生産性向上が賃金上昇のキーだと説いているが、それならば中小企業の付加価値額の上昇が大切だろう。
デフレ下において価格が上げられない状況下では、付加価値額の上昇が難しい中小企業は多い。その中で生産性を上げるには、労働時間を下げるしかない。結果、残業が削減されたり、残業で成り立っている仕事が立ち行かなる事もあり、結果、付加価値額自体が落ちる企業もある。そうすると労働時間の減少に伴い人件費も減少せざるを得なくなる。
つまり、中小企業においては生産性の向上を目指したところで、従業員の賃上げにはつながらない場面が多く出てしまう。
この構図は大企業にも多くあてはまるだろう。
以前のROEも今回の生産性も、分数指標であることに一つの注意点がある。それは分母である資本を減らすことで、数値が良くなるという点である。
ROEの場合には、株主資本であり、生産性の場合には、資源投入量であるが、そもそも両方は経営を大きくするのに必要なものである。これを小さくして分数指標の結果を良くしようとすることは、木を見て森を見ずというか、経営としては本末転倒ではないかと思う。
伝説のコンサルタント、一倉定氏も、「付加価値を生み出し大きくすることが企業の任務であり、生産性向上とは付加価値を大きくすること」と喝破しているが、まさにその通りだと思う。
P.S.
消費税は、企業の付加価値にかける税金「付加価値税」であるが、この付加価値の合計はGDPでもある。つまり消費税はGDPにかける税金でもある。
国は、もしも消費税収を増やしたいなら、付加価値の増大に力を貸すために、税率を上げるのではなく減税をし、付加価値が上がるような施策を施し、税収を大きくするのが役目である。
もちろん、自国通貨建ての国債が発行できる国家に財源問題などは存在しない以上、付加価値額に罰金をかける税金など行うべきではないのは言うまでもない。この意味でもインボイス制度など言語道断である。